西野亮廣とあだち充の作家としての覚悟~死ぬほど編集者を困らせる~
前回、西野亮廣とあだち充は超一流の作家であると言うブログを書きました。
https://kamepyonblog.com/nishino-adachimitsuru-tensai
今回は更に深堀していきます。
やはり、この二人は作家としてぶっちぎりの覚悟を持っていると言うお話をしたいと思います
それは、何か?
自分の表現したいことをするためにまわりの意見を完全に無視するという点です。
いや、もっと具体的に言うと編集者を死ぬほど困らせるという点です。
やりたいことを止められる宿命
僕ごときの表現者では、そんな事はありませんが売れている表現者と言うのは好き勝手には発信が出来ないようです。
なんとなく想像つくのはミュージシャンで、よく「こんな音楽がやりたかったわけじゃない」みたいな話を聞くじゃないですか??
例えばインディーズの時とメジャーデビューしてからは音楽の角が取れて万人ウケする楽曲になったりとかですね。
僕の大好きなミュージシャンの大槻ケンヂ(筋肉少女帯)がこんな事を言ってました。
やりたい事は売れてからやれと言う詐欺がある。
実際に売れてからは「売れる曲を作れ」と言われ、やりたい事なんて一生やらせてもらえない。
芸術やシンパシーを求めるアーティストと、お金を求める会社とのジレンマが存在するのです。
※シンパシーの意味は分かりませんが、シンパシーって使えば「かめぴょんって頭いいのね」って思ってもらえると思って使ってます。
そこにきて冒頭名前を上げた西野亮廣とあだち充は、作家生命を掛けたとんでもない事をしでかしているんです。
それが西野亮廣の「えんとつ町のプペル無料公開」と、あだち充の「タッチでの和也の死」です。
えんとつ町のプペル無料公開
2020年の今となっては「無料公開」と言うのは出版業界で、わりかしスタンダードな手法になりましたが2017年ではセンセーショナルな出来事だったのです。
当時西野亮廣さんは大ヒット中の絵本「えんとつ町のプペル」をインターネット上で無料公開をしたのです。
ポイントは「大ヒット中」と言うところですね。
思ったより売れなくて苦肉の策として実施したわけではなくて、売れている中で実施したわけです。
そして、それは西野史上でもかなり大火力の炎上につながったわけです。
炎上したキッカケは
という主張が出たことです。
だが、西野亮廣は
無料公開して、読む人の総数を増やすとカウントされるのは「買う人」だけなんです。
当然、読んで満足して「買わない人」も増えますが、買わない人は数字って拾いようがないですよね?
だから、無料公開すると増えるは「買う人の数字」だけなんです。
2020年の今聞けば「なるほどなぁ!」となるわけですが、当時は
[chat face=”man3″ align=”left” border=”blue” bg=”blue” style=”maru”]そんなわけあるか!!
世の中そんなに甘くねぇんだよ!![/chat]
となったわけです。
だが、西野亮廣は実際に結果でそれを証明したわけです。
結果が出ると世界は変わり「どうやら無料公開すると売れるらしい」となり各社無料公開を実施しました。
だが、西野さん程の効果は生まれなかった…
価値あるものを無料にしなければいけなくて、クオリティが低いものを無料にしても意味もありません。
結局のところ作品と言うのは力業(ちからわざ)である事は忘れちゃいけません。
僕のいる場所は、クオリティなんて高くて当たり前の世界です。
ここだけ聞けば、とんでもなくカッコいいエピソードです。
だが、このカッコいいエピソードの裏で、とんでもない迷惑を受けた人がいるのです。
それが幻冬舎の編集者袖山満一子さんです。
そう、西野亮廣さんの「革命のファンファーレ」の編集者です。
袖山さんの悲劇
実はえんとつ町のプペルの無料公開は計画的なものではなく、ゲリラ的に行われたものなのです。
それは世間的にゲリラと言う意味ではなく、出版社から作家(西野亮廣)が画像データをジャイアン的に奪取し出版社も知らないガチゲリラだったのです。
ある日、西野亮廣さんは編集者の袖山さんに電話をして
全データください!!
その時の記事があり引用します。
心の中では「えーーっ!」って言いました(笑)。
でも経験上、ここで考えたり悩んだりしても意味がないんです。
とりあえず「わかりました!」と返事して、全データを用意して、全データを送って……。
送った後は、内心ビクビクですよ。
西野さんを信じる気持ちはあるものの、結果がどう出るか、想像もつきませんでしたし。「調整のファンファーレ」より引用
袖山さんは社長になんて伝えるか相当悩んだようです。
そりゃそうですよね…
しかも、幻冬舎の社長と言えば見城徹さんです。
360度どこから見てもヤ〇ザの見城徹さんです。
血の匂い
袖山さんは正直に報告するしかないので
[chat face=”woman1″ “align=”left” border=”red” bg=”red” style=”maru”]すみませんが、全文を、無料で、公開しています[/chat]
「これからします」と言う未来形ではなく過去形で報告しました。
当然ながら「どういうことだそれは!!」となり、社内でも相当袖山さんの立場が悪い方に進みました。
会社員生活でこんなにも恐怖体験はあるでしょうか?
僕は当然見城徹さんには会った事もありませんが、西野亮廣さんが何かの配信の時に「見城徹さんってどんな人ですか?」と聞かれた時に
雰囲気の事だと思いますが、そんな社長いますか??
血の匂いのする社長なんて世の中にいるんですか??
袖山さんは、会社に確認することもなく(確認させてもらう余地ものなく)。
西野亮廣に全乗っかりしたがために、血の匂いのする社長に事後報告しなければならない…地獄でしょうね…
しかし、怒られる間もないくらいたちまち反響がありバーーーって売れ始めたのです。
そして見城徹氏は「そうかこれで売れるのか!よかった!」となんとも柔軟な回答があったのです。
西野亮廣の担当とは…
こんな事が起こる作家の担当って凄まじいですよね。
袖山さんのtweetにも
西野さん、お呼びいただきありがとうございました!!
普通だったら経験できないことを、たくさん経験させていただいた編集者です笑。
たくさんパンチも喰らいましたし(突然飛んでくる!)
何度も白眼になりましたが(半端ないダメージ!)
想像を絶する量の光も見せていただきました!(幸せ!) https://t.co/c1ZCHGj6zS— 袖山まいこ (@yamyamchin) September 25, 2020
わざわざ「たくさんのパンチ」や「白眼になる」という書かなくてもいい表現が使われています。
他にも出版社通さないで勝手に新聞広告を自費で買ってきたりして、結果的に「毎日広告デザイン賞」で最優秀賞を取ったりしてます(これはプペルではなく「新世界」というビジネス書の話です)。
僕が思う、編集者とは作家の主張したい事と世間が作家に求めていることの乖離を埋めるのが仕事だと思っています。
[box05 title=”編集者豆知識”]空前の大ヒットを記録している「鬼滅の刃」も、作者の初めの考えは世界観は変わらないが主人公は全く違う話だったのです。
ですが、編集者がこれじゃぁだめ世間では受け入れられないだろうと話しているうちに、作者が「鬼殺隊に、妹が鬼にされ、家族を惨殺され、妹を人間にするために鬼殺隊に入った少年がいる」と言う話をしたら、編集者が「その人を主人公にしましょう!!」と言って出来上がったのです。
作者のエゴを軌道修正した例です。[/box05]
しかし、こんなにも自己主張の強い作家がいるでしょうか?
そして、その才能を表現できるステージを作れるのは作家を信じ、全乗っかりできる袖山さんだからこそなんでしょう。
だが、こんなにも編集者を困らせる作家は他にはいないのではないだろうか…?
あだち充のタッチ
こんなにも編集者を困らせる作家は他にはいないのではないだろうか…?
と、言ったもののそこに僕はあだち充の名前を上げたいのです。
皆さんはタッチというマンガをご存知でしょうか?
1980年代のマンガですが、凄まじく面白いんです。
皆さんはストーリーは知らなくても、歌は知っているという人も多いのではないでしょうか?
若い娘は覚えておいて欲しいのですが、おじさんとカラオケ行く機会で「最近の曲は分かんないからなぁ」という感じになったら、とりあえずタッチか天城越え歌っておけば盛り上がります。
[box04 title=”タッチのざっくりしたストーリー”]・上杉達也と和也という双子がいる
・お隣に才色兼備の浅倉南が住んでいる
・和也と南は付き合っている
・和也は「南を甲子園に連れて行く」と約束している
・途中で和也が交通事故で死ぬ
・達也が野球を始め甲子園を目指す
・新田や西村と言うライバル出現
・色々あって見事甲子園に行く
・二人の恋の行く末やいかに!![/box04]
ストーリーを書いていて泣きそうです。
今となっては「スポーツ×恋愛」の金字塔のような作品になっていますが、当時はスポーツと恋愛なんて掛け合わせちゃダメな存在だったんです。
ジャッキーチェン×椅子くらい危険な組み合わせなんです。
あだち充以前は「スポーツ×根性」の図式しかなく、野球部員は全員坊主頭で恋愛はご法度とされていました。
野球も巨人の星を見ればわかりますが死と隣り合わせのスポーツだったのです。
恋愛なんて入る余地がありません。
↑劇場版のタイトルが「血染めの決勝戦」
クリックするとなんの予告もしないとんでもない予告編が視聴可能です。
その時代に風穴を開けるように、あだち充は恋も野球も頑張ると言う禁じ手を世に出してきたのです。
しかし、禁じ手はそれに留まることなく、編集者を困らせるあり得ないことをやったのです。
上杉和也の死
タッチと言えば、その代表とされるのが「和也の死」です。
上杉和也は地区大会の決勝戦に向かう途中交通事故にあい死亡してしまうのです(子供をかばって)。
その時、既に人気漫画となっていたタッチはサンデーの基幹作品でした。
編集者はこう切り出すのです。
[chat face=”man3″ align=”left” border=”blue” bg=”blue” style=”maru”]上杉和也を死なすなんてとんでもない!
人気のあるキャラなんだから絶対にダメです!![/chat]
そりゃそうである。
少年マンガでスポーツと恋愛がテーマの爽やかなマンガです。
死と掛け離れた作品です。
当時は、人気キャラクターが死ぬなんてありえない世の中です。
あしたのジョーというボクシングマンガでは人気キャラ力石徹が死んだが、それはボクシングが死と隣り合わせのスポーツだからです。
サンデー的には絶対に人気キャラを死なせたくないし、読者だって和也の死なんていう展開は望んでいない。
だが、あだち充はとあるインタビューでこう答えている。
[chat face=”man3″ align=”right” border=”blue” bg=”blue” style=”maru”]どうして上杉和也の死を描いたのですか[/chat]
[chat face=”Casm8KNUYAAZ2nC.jpg” name=”あだち充” align=”left” border=”gray” bg=”none” style=”maru”]どうしてって…
最初から殺すつもりだったからねぇ[/chat]
文字だけ見ると、まるで殺人犯のような回答をしているのです。
そもそもタッチというタイトルは「バトンタッチ」と言う意味で、もともと和也の夢を達也にバトンタッチするという意味があったのです。
だから、あだち充は最初から和也を殺すつもりだったんです。
あだち充の作戦とは…
ですが、人気に拍車がかかり編集者がそれを許さない状況になりました。
そして編集者は袖山さんみたいに作者に全乗っかりしてくれるわけでもありません。
そこで、どうしても和也を殺したいあだち充が取った方法が…
あだち充は編集者につかまったら「和也が死なないバージョン」を描かされるから、和也を殺して行方をくらませると言う、これまたとんでもない作戦に出たわけです。
当時は携帯電話もありませんから、行方を追う事は困難極まりないのです。
編集者は衝撃ですよね。
だって、週刊誌だから掲載しなきゃいけないし、ハンターハンターみたいにお気軽に休載できる風潮はなかったのです。
そこにある原稿(和也が死ぬやつ)しか載せるものはないんですもの。
「和也の死」が後にどういうフックになるかとかの説得することもなく、力業(ちからわざ)で世間の求めるタッチではなく自分の表現したいエゴを優先させたのです。
結果的にそのエゴにより今でも語り継がれる名作が完成したわけです。
作家の覚悟
いかがだったでしょうか?
二人に共通するのは「覚悟」です。
二人とも結果としてうまくいったから今現在も作家として生きながらえていますが、この作戦は失敗したら…
結果がでなかったら「作家としての死」を意味しているわけです。
西野亮廣さんも無料公開で失敗したら「順調に売れていた本を売れなくした男」「出版社への裏切り行為」となり、今後そんな勝手な事やる作家なんてどこからも本を出せなくなった事でしょう。
あだち充さんも、もしタッチが和也の死によって人気がなくなり打ち切りなんかになっていたら、サンデーどころか、今後一切作家として自己主張できなくなり「編集者と読者の言いなり」にならなければいけなかったでしょう。
この二人が持ち合わせているのは「エゴ」と「覚悟」です。
自分の表現したいエゴは何がなんでも表現する覚悟を持っています。
失敗したらまた挑戦すればいいなんて言えない、失敗したら死ぬ作戦を決行した、大天才があだち充と西野亮廣なのです。
今日僕がお伝えしたい事はひとつです。
クレヨンしんちゃんにも覚悟を決めた作品があり、試写会でスポンサー陣から「こんなに不愉快になるクレヨンしんちゃんははじめてだ」と言われた作品があります。
原恵一監督の「クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶモーレツ大人帝国の逆襲」です。
原恵一監督は「野原しんのすけってキャラとおバカなシーン入れておけば、あとは自分のやりたい事をやる」と言うスタンスで、スポンサーを無視してクレヨンしんちゃんに「昭和ノスタルジー」というとんでもないものを掛け合わせました。
クライマックスはおバカ映画でもなんでもなく、しんちゃんが超真面目に走り切るという凄いシーンをぶち込んできて大人達が涙なしに見れない作品を世に出したのである。
しかし、スポンサーの評価とは裏腹にクレヨンしんちゃん史上最高作品となったのです。
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でも、西野さん絶対クレヨンしんちゃんモーレツ大人帝国の逆襲好きな作品ですよ。
証拠映像がこちらです。
↑クリックしたら、問題のシーンから見れようになってるよ!!
では、またお会いしましょう!
かめぴょんでした。